三陸鉄道の社員や関係者の皆さんが執筆する「次の10年」という冊子に、ディスカバー・リアス代表の中尾が拙文を投稿させていただきました。「次の10年」は、震災から10年間、三陸の復興に尽力してきた三鉄への、これからの期待や展望のメッセージを集めたものです。中尾はこのホームページの冒頭でも書いた「三陸が新しいランニングフィールドになった」ことを書かせていただきました。発行者の方にご了承をいただき転載します。お読みいただければ幸いです。
復興した三陸は、最高のランニングフィールドだ。
特定非営利活動法人ディスカバー・リアス 代表理事 中尾益巳
「海を見ながら山を走れる。こんな場所はなかなかないよ。」
知り合いのランナーに三陸の特徴を伝える時、私がよく使う言葉である。海と山が一体化したリアス海岸の地形は、ランニングを好む人たちにとって非常に珍しく、魅力的なフィールドである。しかしそのことは全国の市民ランナーにほとんど知られていない。そしてその環境が震災の復興工事によって整備され、三陸鉄道がさらに面白さを増しているのである。
2011年、震災ボランティアとして初めて三陸を訪れた私は、リアス海岸の魅力と可能性に惹かれ、2年前に早期退職して東京から大船渡に移住した。現在は全長311kmの距離を旅のように走る「ステージレース三陸311」の準備を続ける一方、三陸鉄道とコラボした「さんロゲ(三陸鉄道ロゲイニング )」というイベントも開催している。その活動の中で、この地域のランニング環境を向上させている特徴がいくつもあることを、目と足で感じている。
特徴の一つ目は「道」。全線開通した三陸自動車道はよく知られているが、国道45号線や県道・市道・町道も多くの箇所で改修され、幅の広い歩道が作られている。安全かつ快適に走れる道だ。
二つ目は「防潮堤」。津波を防ぐために作られた巨大な防潮堤だが、そのいくつかは階段や手すりが整備された遊歩道になっている。堤防に登れば景観は最高。そして津波の怖さを実感することもできる。
三つ目は「みちのく潮風トレイル」。環境省が復興事業として整備したトレイルは青森から福島まで1000km以上にも及ぶが、特に岩手県内には海のすぐ近くの山林ルートが多く、まさに「海が見える山のトレイル」。繰り返すが、こんなトレイルは全国的にも珍しい。
そして四つ目の特徴は、意外に思えるかもしれないが「トイレ」である。町から離れるとトイレに困ることがよくあるが、三陸では津波で流失した漁港や公園にトイレが新設され、そのほとんどが温水洗浄式トイレである。長距離を走るランナーたちは「えっ、こんなところにきれいなトイレが!」と驚き安心することが多いだろう。
そして最後の特徴が三陸鉄道。「みちのく潮風トレイル」など海沿いのランニングルートと並行している三鉄は、走る旅のツールとして最適。車よりも三鉄を使った方が、ワンウェイの旅として楽しめる。駅間が短い区間もあるため「もう一駅分走ってみるか」と距離の調整もしやすい。
そんな三鉄さんのご協力をいただき、私たちNPOディスカバー・リアスが企画したイベントが「さんロゲ(三陸鉄道ロゲイニング)」。ロゲイニングとはオリエンテーリングの一種で、制限時間内にチェックポイントを数多く回って得点を競うアウトドアスポーツだが、三鉄を使うことで競技エリアが広がる。2022年に開催した「第1回in宮古&山田」「第2回in釜石&大槌」には東北各県や東京からも参加者が集まり、新たな観光振興イベントとして定着しつつある。
ランニングという、シンプルで誰でもできるスポーツだからこそ、いろんな楽しみ方ができる。その多様な楽しみ方を提供する環境が震災復興の副産物として生まれていることを、私たちはもっともっと広めていきたい。